SM小説で知られる作家・団鬼六と渥美清の親交について、団鬼六自身がインタビューで語っている。阿川佐和子が『週刊文春』誌上で現在も連載中の『阿川佐和子のこの人に会いたい』、2010年7月の回に団鬼六が登場した。
団鬼六と渥美清の親交は、渥美の浅草時代からの盟友・関敬六と谷幹一のルートからはじまっている。団が主宰するSM雑誌『SMキング』の撮影場所に、関と谷は”しょっちゅう”遊びにきていたようで、ある時そこに渥美清が見学にやってきた。
縄で吊り上げた女性モデルを「上げろ」「下ろせ」と、煎餅をかじりながら指示を出す団鬼六のとなりに渥美清が座り、渥美も同じように煎餅をポリポリかじりながらそれを見ていたという。
なんともシュールな光景で、これだけでも相当おかしいが、その後のやりとりが最高に面白い。以下、引用。
団 「渥美さんも何かやりませんか」と言ったら、「いやあ、僕は観てるだけで結構です」。
阿川 へえ。
団 それで、女の子が下ろされたら、「ご苦労さんでしたネ、お嬢さん。痛くなかったですか。大丈夫ですか」とか言うわけ。そしたら、女の子が「いやぁ、寅さ~ん」て飛んでくる。
「阿川佐和子のこの人に会いたい〈8〉」 (231p)
「いやぁ、寅さ~ん」には爆笑だ。臨場感のある団鬼六の述懐に思わず惹きこまれる。
団鬼六は、渥美清に人生相談をすることもあったようで、渥美のひとことがきっかけで、SM小説家としての自分に迷いがなくなったと当時を振り返る。渥美清は団鬼六の悩みに対し、自分が寅さんを続けている理由を引き合いに出して、「SMだけを書け」と団鬼六に諭したという。渥美清が寅さんを続けるその理由とは、一体なんだったのか……?気になる方はぜひ本書で続きをお楽しみいただきたい。
団鬼六以外にも、長島茂雄、タモリ、梶芽衣子、三國連太郎、財津一郎、藤田まことなど、昭和を彩った重要人物の貴重なインタビューが掲載されている本書。非常に読みやすく面白い。芸能好きにはオススメ。