1992年刊行のものに、加筆、再編集を加え、渥美清没後の1996年に発行された一冊。男はつらいよ48作品のあらすじを中心に、出演者、上映年、ロケ地、観客動員、併映などの作品情報がまとめられている。
各作品の紹介には3ページが割り当てられ、出演者などの基本情報と、劇中ワンシーンのスナップショット2枚、あとは1000文字弱のあらすじが掲載されている。あらすじは映画冒頭から結末までを紹介しており、劇中の印象的な名シーン、名セリフも含めて過不足なくよくまとめられている。余計な評論や筆者の個人的な感想がないため、クセがなく読みやすい。
作品のあらすじだけをこのように簡潔にまとめている本はありそうでなかなかない。しかも手のひらサイズの文庫本なので、各作品のエピソードや印象的なシーンなどをサッと参照したいというニーズにはピッタリの一冊だ(一般の人にそんなニーズがあるかどうかはさておき)。
各作品紹介の合間には山田洋次を中心に出演者たちのエッセイが収録されており、このちょっとした読みものが本書のアクセントになっている。エッセイは、山田洋次、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、竹下景子、前田吟、下條正巳、笠智衆、佐藤蛾次郎、太宰久雄ら11名が執筆、計26本収録。
山田洋次監督のエッセイはもっぱら作品解説であるが、他の執筆者たちは自身の役どころへの印象、撮影時のエピソード、作品への思いなど、まさにエッセイ然とした内容を記している。中でも注目なのはタコ社長演じる太宰久雄のエッセイ『休日』。男はつらいよ撮影合間のオフに過ごした浅草での出来事を描いている。
「浅草は私が生まれ育った町で……」という書き出しから、浅草にまつわる思い出話が展開されるかと思いきや、話は唐突に太宰が出会ったスリ事件の描写に変わる。極めて写実的なスリ事件の描写が続いたかと思えば、またも唐突に「雲一つない初冬の青い空。歳月は流れゆく」という紋切り文章で終わる不思議なエッセイ。なんともシュールな味わいだ。
吉岡秀隆、後藤久美子らのエッセイも興味深いが、あくまで簡潔にまとめられた各作品のあらすじが本書の価値。熱心な寅さんファンであれば、辞書がわりにオススメできる。