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『寅さんから学んだ大切なこと』/皆川一

渥美清のかつての付き人による、渥美清の言行録。「人生で大切なことはすべて○○で学んだ」系の粗悪本を想起させるタイトルだが、中身はいたって真摯で誠実。一読に値する一冊である。

あの渥美清が、ときには銭湯で四時間以上話に付きあわせ、眠れぬ夜には深夜三時でもかまわず電話をかけるほど心を許していた付き人による著作。だから、映画だけでは絶対に知ることのできない渥美清が本書にはつづられている。

著者の皆川一(みながわ・はじめ)は、役者志望であった中学15歳から20歳まで渥美清の付き人を務めていた。以後、劇団四季『CATS』などの舞台製作を行う会社を興すが事業に失敗し倒産。自殺未遂、自己破産と人生のどん底を味わう。その後はサラリーマンとして再起に成功、現在は建設会社を対象にしたコンサルティング会社を経営している。

これだけの経歴であれば、経営者としての自我が見え隠れする文章となってもよさそうだが、本書にはあくまで、渥美清の人生観とそこから生まれた言葉たちだけが並ぶ。渥美清の教えは、人との約束、貸し借り、お詫びの仕方、心の平静の保ち方、人生の引き際、死生観まで多岐にわたっている。

その言葉が発せられた前後の文脈、その言葉を生み出すにいたった渥美清の思考についても語られているため、人間として、大人としての所作を学ぶテキストととしても有益である。本書には、たとえば以下のような教えが多数掲載されている。ビジネス訓として、会社の朝礼でそのまま使えそうではないか!

 そして、渥美さんは「流れ星」の話を何度か私にしてくれました。流れ星を見たときに三回、願い事を唱えれば願いが叶うというのは、とっさに願い事を唱えられるほどそのことをいつも考えているかどうかを試されているのだと。

「そんなふうに考えているのは、せいぜい10人に一人がいいところだろうよ」

肺結核からの生還で命の限りを知り、男はつらいよでの成功により虚無と欺瞞を知り、人間として研ぎ澄まされた感覚を持っていた渥美清から発せられる言葉だからこそ、ずしりと響く人生訓の数々。

寅さんファンのみならず、一般のビジネスパーソン諸賢にもおすすめできる一冊である。

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