『男はつらいよ 寅さんの人生語録』/寅さん倶楽部

『男はつらいよ』劇中の寅さんの名言集。おいちゃん、おばちゃん、さくら、博、タコ社長など、とらやの面々の名言まで収録されている。旅、恋愛、人生など、テーマ毎にセリフが分類して収められており、セリフ以外には作品数の表記のみ。余計な解説などもなく、極めてシンプルな内容。

やや薄めの文庫本だが、名言としてメジャーなものはだいたい収められている印象。たとえば「ほら、見な。あんな雲になりてえんだよ」「てめえ、さしづめインテリだな?」など。寅さんをよく見込んでいる人にとっては、下記のような瑣末なセリフの方が嬉しいかもしれない。

「亭主が女房に月給袋を渡す。いいねえ」
「よお!なんだおまえ、まだ生きてんのか。いやだねえ」
「すぐ説教しやがる。大学教授の悪いクセだよ」

なお、個人的に一番ツボだったのは、タコ社長の名言「(寅さんは)悪いけど体のいい失業者だよ」だった。手厳しいなあ。

本書の冒頭には、山田洋次が文章を寄せている。「寅さんを見たことがない人にとっては、陳腐な言葉の羅列でしかない」。本書には確かにそのような面があることは否めない。寅さんファンならば、セリフは脳内において、いつの間にか寅さん口調に自動変換され再生される。ただの「いやだねえ」も、寅さんのあきれ顔からため息とともに発せられる「いやだねえ……」であると想像するだけで、俄然セリフが活きてくるのだ。

セリフが活きるのはわれわれ観客だけでなく、男はつらいよ撮影中の山田洋次監督もそうであったようだ。自分の頭の中で作り上げた言葉が、渥美清ら俳優たちによって発せられることにより、「自分は本当はこういうことが言いたかったのだな」と自分の意図以上のものに気づかさせることが多々あったと、以前ラジオ番組内で語っていたことがある。

ただの言葉の羅列に、深い奥行きとニュアンスを与える俳優の力があるからこそ、セリフはセリフの枠を飛び越え、名言として成立する。『男はつらいよ』名セリフの数々は、山田洋次と渥美清ら俳優たちの合作であったことを、あらためて発見できる一冊だった。

      2016/05/31

 - 男はつらいよ書籍紹介