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寅さんファンに聞く「寅さんとわたし」~文筆家・森下くるみさんの巻

文筆家・女優の森下くるみさん。森下さんは『男はつらいよ』の大ファンで、20代半ばにして全48作品を制覇したという強者であります。しかも寅さんにハマったそのきっかけが、渥美清の”寅さん以前”の出演作だというから、なおさら驚きです。
映画遍歴のはじまりは伝説のカルト映画『ピンク・フラミンゴ』という森下さんに、『ピンク・フラミンゴ』から『寅さん』へと至る道のりについて語っていただきました。
(取材日:2016年6月19日 取材場所:神楽坂 NemaruCafe)

目次

「男はつらいよ」にハマり、寅さんについて熱く語っていた20代

──今日はご自宅からわざわざ寅さんグッズを持参いただいたとか。

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寅さんにすごくハマっていた時期に、長野県の小諸市にある寅さん記念館(=渥美清こもろ寅さん会館)に行ったんです。私めったに物販とか買わないんですけど、その時はなんとなくこれを買ってしまって。

──すごい!渥美さんいい顔してますね~

「縁起物」って感じがしますよね(笑)。小諸の寅さん記念館は商売っ気をあまり感じなくて、素朴で和やかな雰囲気のいいところでした。渥美さん直筆の手紙とか、資料的にものすごく充実してましたよ。

──これはいつ頃のことですか?

20代後半かな。当時、寅さんにすっごいハマってて、1話ずつ週1ペースで見てました。出演するイベントでも寅さんのことを話したり、友達と会っても唐突に「寅さん知ってる?面白いよ」って布教活動したり。とにかく、自分がいかに寅さんを好きかということを熱く語りまくってましたね。

ピンク・フラミンゴから寅さんに至る、森下くるみの映画遍歴

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──今日はまず「森下くるみの寅さんに至る道」というテーマで、森下さんの映画遍歴を辿っていきたいと思うのですが。

はー(笑)映画が私の人生に食い込んできた経緯は私自身忘れかけてるので、いい機会かもしれないですね。

──まず、初めて見た映画について教えてください。

初めて映画館で見たのは『子猫物語』です。4歳とか5歳の時、母方のおばあちゃんが連れてってくれたんですけど、映画館を出た時におばあちゃんが「あーつまんなかった、金返して欲しい」と口走ったのがすごく記憶に残っています。映画とは全っ然関係ないのに(笑)。

その後はテレビでしか映画を見てないけど、トビー・フーパー監督『スペースインベーダー』に感動したんですね。ちょうど80年代のその頃にUFOやノストラダムスの大予言が流行ってて、宇宙人、幽霊、超能力、スプラッタ、ゾンビ、オカルトとか人知を超えたものに惹かれていたんで。『ムー』なんかも立ち読みしたなぁ。

──映画を本格的に見るようになったのはいつ頃ですか?

18歳になって上京してからですね。一人暮らしをはじめた頃、近所のゲオに「カルト映画コーナー」があって。明らかに危ない、変なパッケージの作品ばかりでしたけど、小学生の頃にB級ホラー映画を見てたからか、なんとなく惹かれるものがあったんです。

それで最初に借りたのが『ピンク・フラミンゴ』でした。登場人物たちが「我こそは下品で変態だ!」と奇人ぶりを競ういわくつきの映画なんですけど、主人公ディヴァインの強烈なインパクトだけじゃなく、映画で描かれるハチャメチャを「なんて開放的な世界なんだ!」と良い具合に勘違いして、それから映画にのめりこむようになりました。

カルト、ドキュメンタリー、フランス映画を経由して、古い日本映画にたどり着く

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──その後はどのように映画をご覧になっていったのですか。

大きな流れでいくと、カルト映画ブーム、ドキュメンタリー映画ブームが来て、20代前半でフランス映画ブームが来ました。当時引っ越した先に、古いVHSを大量に貸している個人経営のレンタルビデオ屋さんがあって、そこのおじいちゃんに薦められるがままイタリア、ドイツ、スペインと、フランス以外にもヨーロッパ系の映画をたくさん見ましたね。

──そのあとに寅さんが続くのですか?

フランス映画ブームのあと、ビデオ屋の棚の並び順で岡本喜八監督とか古い日本映画に興味が出て、その流れで寅さんにたどり着いたんだと思います。あ!そのあとさらにアート・アニメーションブームもくるんですよ(笑)。ラウル・セルヴェとか、ユーリ・ノルシュテインとか。本当に雑食ですね。

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──これは森下さんのブログにあった「フェイバリット映画監督」リストですが。

ふふ(笑)。こんな自意識過剰なことしてなにをねらってるんだろ(笑)。映画好きじゃない人には何がなんだかわからないのに。映画はいろいろ見てきましたけど、今後も繰り返し見ていきたい監督たちがこのリストですね。

小津安二郎/成瀬巳喜男/川島雄三/伊丹十三/森崎東/チャップリン/スティーヴン・スピルバーグ/アンドレイ・タルコフスキー/ボリス・バルネット/ヴィットリオ・デ・シーカ/フェデリコ・フェリーニ/マルコ・ベロッキオ/アルフレッド・ヒッチコック/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ラウル・セルヴェ/ミヒャエル・ハネケ/ジャック・ベッケル/フランソワ・オゾン/ジョン・ウォーターズ

「森下くるみの間」より

映画館をハシゴしていた、映画三昧の日々

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──小説や活字よりも映画にのめり込んだんですね。

20代の頃は映像漬けでした。とにかく見たい映画がいっぱいあって、映画館をハシゴしたあと、レンタルビデオ屋に寄ってビデオ3、4本借りて家でも寝る間際まで映画を見る、みたいな。

フライヤー(チラシ)を集めるのも映画館ならではの楽しみで、印象深いフライヤーは家に取ってあります。これはフランソワ・オゾン監督『スイミング・プール』のフライヤーなんですけど、質感(=シルクのような光沢のある薄い紙質)がすごくないですか?

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昔のフライヤーってとてもおしゃれで、お金もかかってるんですよ。今はこういう凝ったフライヤーが全然なくなりましたね。渋谷のシアターNとか好きだった映画館はつぶれちゃったし、レンタルビデオ屋さんも古い映画のVHSがどんどんDVDに置き換わるし。映画の見方は昔と比べてだいぶ変わりましたね。

文通相手から毎月『BURRN!』が届き、メタルに目覚めた小学生時代

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──映画の話題ではないのですが、ブログによると小学生の頃からヘヴィメタルを聞いていたとか。

はい。メタルは好きです。にわかですけど。スラッシュメタルが特に好き。

──年上の兄弟・姉妹がいない環境で、小学生からメタルを聞いているのは珍しいと思うのですが、どういったきっかけで?

変なきっかけなんですけど、私、小学生の時に文通をしてて。昔は雑誌の読者ページに「文通コーナー」があったじゃないですか。そこにペンフレンド募集が載って、20代後半くらいの男性から手紙が来たんです。ワープロで打たれた生真面目な手紙に、「激しいけどメロディアスな音楽が好きです、よかったら聞いてください」ってメタル系の曲を詰め合わせた80分のカセットテープが同封されていて。あと、『BURRN!』の最新号を毎月欠かさず送ってくれました。

──えっ?『BURRN!』ってあのメタル雑誌の?

そうそう。『BURRN!』と、手紙はね、「今月はジャーマンメタル特集です、僕のお気に入りをリストにしました。1曲目は~」みたいな、説明書かってくらいすっごい長いやつだった(笑)。

何のやましいこともなく、純粋に「僕はメタルが好きです」ってことだけが手紙に綴られてるんです。本当にただそれだけ(笑)。ごくたまに「旅行に行ったのでお土産送ります」って、台湾産の乾燥タピオカを同封してきたり(笑)。文通は1,2年続きました。

それはなかなかレアな体験ですね。

そもそも曲調に興味がなかったら『BURRN!』も捨ててたと思うんですけど、「イングウェイ・マルムスティーンかっこいいな」とか、「Guns N’ Rosesって聴きやすいな」って思ってたんで、小学校でメタルの素質が開花したのはその人のおかげかもしれないですね。

寅さん以前に『拝啓天皇陛下様』『喜劇・女は度胸』で渥美清を知る

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──寅さんを初めてみたきっかけを教えてください。

森崎東監督『喜劇・女は度胸』か、野村芳太郎監督『拝啓天皇陛下様』のどっちかだったか、『男はつらいよ』ではない作品で渥美清さんを知りました。渥美さんってだいたいどの映画でも寅さんなんですけど(笑)、『喜劇・女は度胸』のキャラクターは良かった。堂々と胸張って生きてる人って感じで。

ドラマの『泣いてたまるか』も寅さんより先に見たんですね。現場の撮影カメラマンさんが貸してくれたんです。春川ますみさんが奥さん役の回があって、渥美さんは奥さんに出ていかれるんですけど、まだ未練があって、みたいな話でなぜか大号泣して、その流れで『男はつらいよ』を見るようになったんだと思います。

──初めて見た寅さんの印象はいかがでした?

律儀に1作目から見ていったんですけど、素直に「見やすい!おもしろい!」って思いました。渥美さんだけじゃなく、博のお父さん役の志村喬さんが寡黙ながらもすごく人間くさくて、それが寅さんにハマるきっかけだと言ってもいいくらい。

マンネリながら変化に富んだ寅さんに、毎回心が揺さぶられる

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──それからシリーズをどう見進めましたか?

レンタルでちょっとずつ見ている途中で、10作目くらいの時にファンの方から全作品揃ったDVD-BOXセットをいただいて、それを毎週のお楽しみ的な感じで見進めました。

40作目あたりになると渥美さんに元気がなくなっていて、見るのが辛くなるんですよね。それで3ヶ月くらいブランクができたりして、結局全部見るのに1年以上かかりました。一周したあとも「あの回がもう一度見たい」って、お気に入りの作品を見直してましたね。

──48作を制覇しようというモチベーションはどこからきたのでしょう?

「寅さんって最後はどうなるの?」っていう好奇心です。結局はフラれるんだってわかってるけど、「今回は成就するかもしれない」って思わせる回もあるし、それほど盛り上がらず呆気なく終わる回もあれば、急にまたエッジがきいて面白くなったりとか。

マンネリとは言いつつ波があって、揺さぶられる感じを毎回楽しんでました。

「男はつらいよ」の魅力は、寅さんでもマドンナでもなく「脇役」

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──森下さんにとっての寅さんの魅力を教えてください

私の場合は俳優さん、それも寅さんやマドンナではなく「脇役」の人々に惹かれます。

古い日本映画をたくさん見てきたので、他の映画で好きになった俳優さんが『男はつらいよ』に登場すると嬉しいんですよ。三船敏郎さんや嵐寛寿郎さん、田中邦衛さん……。逆に、寅さんで見かけてから、その俳優さんの古い作品をさかのぼって見ることもありました。行ったり来たりですね。

──森下さんお気に入りの脇役は?

やっぱり志村喬さんですね。志村さんの芝居の振り幅には驚きます。黒澤明監督の『生きる』みたいな重たい芝居が得意なのかと思っていたら、テレビドラマで軽い役をやっているのを見て「この人、陽気な役もやるんだ、騙されたっ」って(笑)。

あとは長渕剛さんも面白い。寅さんに出てる長渕さんは、ぶっきらぼうだけど惚れた女にはとことん優しくて、真っ直ぐさ、情けなさ、若者の勢い、いろいろなものが入り混じっていて。あの愛嬌たっぷりなキャラクターが好きですね。

──女優さんのお気に入りはいかがでしょう?

女優さんはね、女女したクドイ演技を見せられるとげっそりしちゃうんですよ(笑)。だから淡路恵子さんみたいに気っ風がいいというか、男性よりも骨の太い、それでいて慈悲深い菩薩みたいな、そんな女優さんが好きです。

春川ますみさんもいいですね。媚を売っても嫌味じゃないし、かといって特別可愛い顔をしているわけでもないんですけど、しっかり印象に残るという。今村昌平監督の『赤い殺意』っていう映画が大好きなんですけど、春川さんが首吊り自殺しようとして失敗するシーンの生々しさ、あの芝居は誰にも真似できないですよ。すごく不思議な女優さんですね。

初めて見るならやはり1作目 お見合いシーンの狂った渥美清を見てほしい

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──森下さんのおすすめ寅さん作品を教えてください

えーどれだろう?私、あんまり1話1話を覚えてないんで、おすすめ作品も「この俳優を見てほしい」っていう俳優軸になりますね。

やっぱり1作目はハズせないです。さくらのお見合いの席で酔っ払って「しかばねに水と書いて『尿』、つまりションベン」とか調子に乗っちゃって、せっかくの会をぶち壊すシーンの寅さんは、本当に狂ってるなと思います。志村喬さんも出ているので、初めての人はまず1作目を見るといいと思います。

あとは、長渕さんの回もぜひ見てほしいですね、37作『幸福の青い鳥』。

作品という見方でいくと、24作『寅次郎春の夢』はさくらが告白されるという、いつもと違うアプローチが変化球として新鮮。あとは寅さん一行がハワイに行こうとしたけどトラブルが起こって行けなかった話、4作目(『新・男はつらいよ』)か。あれも超ウケたんです。これもおすすめですね。

性別を超えた大らかさ、複雑さを文章で表現していきたい

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──最後に今後の活動についてうかがいます。次回作のテーマは家族だとか?

次回作は故郷・秋田と家族について、淡々と心境を綴った私小説風エッセイが電子書籍で出る予定です。タイトルは『虫食いの家(うち)』。なぜ家族をテーマに?と聞かれたら、書き留めておきたかったとしか言いようがないですね。忘れたくないから書くし、書くことで忘れ去りたいとも思うし。

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──今後、表現していきたいものはありますか?

俳優さんの好みでも言いましたけど、男ってこういうもの、女ってこういうもの、なんていう固定概念に一切興味がないので、男性にも女性にも共通するような、性別を超えた大らかさ、複雑さを描いていきたいです。女子にはわかるとか、男子には受けがいいとか、そういうものから離れていきたい。そう考えると、家族は魅力的なテーマかもしれないですね。必ずしも、父親や母親、それぞれの役割にこだわらなくてもいいと思うし。

──「家族もの」としての寅さんはいかがですか?

寅さんの家族に、近隣の人が自由に出入りしている感じは理想的ですね。何かあったら誰かが助けてくれる。その支えられてることの安心感って重要だと思うんですよ。

寅さんは物語の骨組みがしっかりしていて、家族もののお手本みたいな形ですけど、そろそろ全然違うタイプの家族ものが出てきていいと思います。今後は長編小説も書いていきたいので、思い切って女性版の寅さんを作ってみるのも面白いかなあ。

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森下くるみ プロフィール
文筆家・女優
1980年3月4日 秋田県秋田市出身

著作
『虫食いの家(うち)』(2016)Kindle Single
『36 書く女×撮る男』(2016)ポンプラボ
『らふ』(2010)青志社
『すべては「裸になる」から始まって』(2008)単行本:英知出版/文庫本:講談社文庫

出演作
『まんが島』(公開待機中)
『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)
『インターミッション』(2013)
『死んでもいいの 百年恋して』(2012)
『ユートピア・サウンズ』(2012)
『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』 (2011)

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