寅さんファンに聞く「寅さんとわたし」第8回~文筆家・森下くるみさんの巻(後篇)

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文筆家・女優の森下くるみさん。森下さんは『男はつらいよ』の大ファンで、20代半ばにして全48作品を制覇したという強者であります。しかも寅さんにハマったそのきっかけが、渥美清の”寅さん以前”の出演作だというから、なおさら驚きです。

『ピンク・フラミンゴ』から『寅さん』に至る森下さんの映画遍歴を追いかけた前篇に引き続き、インタビュー後篇ではいよいよ『男はつらいよ』を中心にお話をうかがっていきたいと思います。

取材日:2016年6月19日
取材場所:神楽坂 NemaruCafe

寅さん以前に『拝啓天皇陛下様』『喜劇・女は度胸』で渥美清を知る

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寅さんを初めてみたきっかけを教えてください。

森崎東監督『喜劇・女は度胸』か、野村芳太郎監督『拝啓天皇陛下様』のどっちかだったか、『男はつらいよ』ではない作品で渥美清さんを知りました。渥美さんってだいたいどの映画でも寅さんなんですけど(笑)、『喜劇・女は度胸』のキャラクターは良かった。堂々と胸張って生きてる人って感じで。

ドラマの『泣いてたまるか』も寅さんより先に見たんですね。現場の撮影カメラマンさんが貸してくれたんです。春川ますみさんが奥さん役の回があって、渥美さんは奥さんに出ていかれるんですけど、まだ未練があって、みたいな話でなぜか大号泣して、その流れで『男はつらいよ』を見るようになったんだと思います。

初めて見た寅さんの印象はいかがでした?

律儀に1作目から見ていったんですけど、素直に「見やすい!おもしろい!」って思いました。渥美さんだけじゃなく、博のお父さん役の志村喬さんが寡黙ながらもすごく人間くさくて、それが寅さんにハマるきっかけだと言ってもいいくらい。

マンネリながら変化に富んだ寅さんに、毎回心が揺さぶられる

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それからシリーズをどう見進めましたか?

レンタルでちょっとずつ見ている途中で、10作目くらいの時にファンの方から全作品揃ったDVD-BOXセットをいただいて、それを毎週のお楽しみ的な感じで見進めました。

40作目あたりになると渥美さんに元気がなくなっていて、見るのが辛くなるんですよね。それで3ヶ月くらいブランクができたりして、結局全部見るのに1年以上かかりました。一周したあとも「あの回がもう一度見たい」って、お気に入りの作品を見直してましたね。

48作を制覇しようというモチベーションはどこからきたのでしょう?

「寅さんって最後はどうなるの?」っていう好奇心です。結局はフラれるんだってわかってるけど、「今回は成就するかもしれない」って思わせる回もあるし、それほど盛り上がらず呆気なく終わる回もあれば、急にまたエッジがきいて面白くなったりとか。

マンネリとは言いつつ波があって、揺さぶられる感じを毎回楽しんでました。

「男はつらいよ」の魅力は、寅さんでもマドンナでもなく「脇役」

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森下さんにとっての寅さんの魅力を教えてください

私の場合は俳優さん、それも寅さんやマドンナではなく「脇役」の人々に惹かれます。

古い日本映画をたくさん見てきたので、他の映画で好きになった俳優さんが『男はつらいよ』に登場すると嬉しいんですよ。三船敏郎さんや嵐寛寿郎さん、田中邦衛さん……。逆に、寅さんで見かけてから、その俳優さんの古い作品をさかのぼって見ることもありました。行ったり来たりですね。

森下さんお気に入りの脇役は?

やっぱり志村喬さんですね。志村さんの芝居の振り幅には驚きます。黒澤明監督の『生きる』みたいな重たい芝居が得意なのかと思っていたら、テレビドラマで軽い役をやっているのを見て「この人、陽気な役もやるんだ、騙されたっ」って(笑)。

あとは長渕剛さんも面白い。寅さんに出てる長渕さんは、ぶっきらぼうだけど惚れた女にはとことん優しくて、真っ直ぐさ、情けなさ、若者の勢い、いろいろなものが入り混じっていて。あの愛嬌たっぷりなキャラクターが好きですね。

女優さんのお気に入りはいかがでしょう?

女優さんはね、女女したクドイ演技を見せられるとげっそりしちゃうんですよ(笑)。だから淡路恵子さんみたいに気っ風がいいというか、男性よりも骨の太い、それでいて慈悲深い菩薩みたいな、そんな女優さんが好きです。

春川ますみさんもいいですね。媚を売っても嫌味じゃないし、かといって特別可愛い顔をしているわけでもないんですけど、しっかり印象に残るという。今村昌平監督の『赤い殺意』っていう映画が大好きなんですけど、春川さんが首吊り自殺しようとして失敗するシーンの生々しさ、あの芝居は誰にも真似できないですよ。すごく不思議な女優さんですね。

初めて見るならやはり1作目 お見合いシーンの狂った渥美清を見てほしい

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森下さんのおすすめ寅さん作品を教えてください

えーどれだろう?私、あんまり1話1話を覚えてないんで、おすすめ作品も「この俳優を見てほしい」っていう俳優軸になりますね。

やっぱり1作目はハズせないです。さくらのお見合いの席で酔っ払って「しかばねに水と書いて『尿』、つまりションベン」とか調子に乗っちゃって、せっかくの会をぶち壊すシーンの寅さんは、本当に狂ってるなと思います。志村喬さんも出ているので、初めての人はまず1作目を見るといいと思います。

あとは、長渕さんの回もぜひ見てほしいですね、37作『幸福の青い鳥』。

作品という見方でいくと、24作『寅次郎春の夢』はさくらが告白されるという、いつもと違うアプローチが変化球として新鮮。あとは寅さん一行がハワイに行こうとしたけどトラブルが起こって行けなかった話、4作目か。あれも超ウケたんです。これもおすすめですね。

性別を超えた大らかさ、複雑さを文章で表現していきたい

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最後に今後の活動についてうかがいます。次回作のテーマは家族だとか?

次回作は故郷・秋田と家族について、淡々と心境を綴った私小説風エッセイが電子書籍で出る予定です。タイトルは『虫食いの家(うち)』。なぜ家族をテーマに?と聞かれたら、書き留めておきたかったとしか言いようがないですね。忘れたくないから書くし、書くことで忘れ去りたいとも思うし。

今後、表現していきたいものはありますか?

俳優さんの好みでも言いましたけど、男ってこういうもの、女ってこういうもの、なんていう固定概念に一切興味がないので、男性にも女性にも共通するような、性別を超えた大らかさ、複雑さを描いていきたいです。女子にはわかるとか、男子には受けがいいとか、そういうものから離れていきたい。そう考えると、家族は魅力的なテーマかもしれないですね。必ずしも、父親や母親、それぞれの役割にこだわらなくてもいいと思うし。

「家族もの」としての寅さんはいかがですか?

寅さんの家族に、近隣の人が自由に出入りしている感じは理想的ですね。何かあったら誰かが助けてくれる。その支えられてることの安心感って重要だと思うんですよ。

寅さんは物語の骨組みがしっかりしていて、家族もののお手本みたいな形ですけど、そろそろ全然違うタイプの家族ものが出てきていいと思います。今後は長編小説も書いていきたいので、思い切って女性版の寅さんを作ってみるのも面白いかなあ。

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森下くるみ プロフィール
文筆家・女優
1980年3月4日 秋田県秋田市出身

著作
虫食いの家(うち)』(2016)Kindle Single
36 書く女×撮る男』(2016)ポンプラボ
らふ』(2010)青志社
すべては「裸になる」から始まって』(2008)単行本:英知出版/文庫本:講談社文庫


出演作
『まんが島』(公開待機中)
『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)
『インターミッション』(2013)
死んでもいいの 百年恋して』(2012)
『ユートピア・サウンズ』(2012)
劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』 (2011)

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森下くるみの間

      2016/09/16

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