寅さんファンに聞く「寅さんとわたし」第3回~お笑い芸人・まなてぃさんの巻
お笑い芸人のまなてぃさんは、『R-1ぐらんぷり』’08、’11、’14のセミファイナリストで、『エンタの神様』『とんねるずのみなさんのおかげでした』等の出演歴も持つピン芸人さん。
マニアックな昭和ネタを大得意としておられまして「小津安二郎作品の中でテレビを異常に欲しがる昭和の子役」「チキンの発音がうまく言えないスチュワーデス物語の堀ちえみ」など、その筋に明るい人にはタイトルだけでも面白い多数のネタをお持ちであります。
日活ロマンポルノ、大映ドラマなど、昭和芸能に造詣の深いまなてぃさんですから、当然『男はつらいよ』も守備の範疇でありまして、今回のオファーにも二つ返事でご快諾いただきました。
夢は『タモリ倶楽部』出演と語るまなてぃさん独自の寅さん論、はりきってどうぞ~。
取材日:2014年11月8日
取材場所:池袋 居酒屋 豊田屋 二号店
公園で勝手に「次田愛握手会」を開催していたアマチュア時代
今日はよろしくお願いします。
わたし本当に寅さんが大好きで、今日はお話したいことがありすぎるのでメモにまとめてきたんですよ(笑)。
好きなシーン、寅さんあるある、寅さんの意外な一面とか。本当はもっといっぱいあるんですけどね。寅さんについては「一晩じゃどうにもなんねえ!」って、書きながら頭抱えてました。
「寅さんメモ」持参のまなてぃさん
まずは、まなてぃさんが芸人になったきっかけから教えてください。
大学卒業後に上京して働きはじめたんですけど、当時は東京に友達がいなかったので休日は一言も人と話すことがなくて、こりゃいかんと思ってたんです。
それで当時、井の頭公園によく行ってたので、公園にゴザひいてダンボールに本名で「次田愛(つぎたまな)握手会」って書いて、勝手に握手会を始めたんですよ。アイドルと間違えて誰かが話しかけてくれるかもしれないって(笑)。そうしたらちゃんと人が来てくれたんです!「お姉さん誰?」「いや誰でもないです、ただのOL!」とかいって。
そんなことをしてたら知人から「あなた面白いからお笑いライブのオーディション受けてみたら?」と勧められて。芸人さんのネタをタダで見られるし、お友達もできるかもしれないから、これはいいぞと。出場には3分間のネタが必要だったんですけど、作って出たらすごいウケて、しかも合格までしちゃって(笑)。
すごい!
ライブ本番でもとってもウケたんですけど、一度舞台でウケてしまうとその快感が忘れられなくなってしまって(笑)。
しばらくして派遣のお仕事も辞めて、『エンタの神様』とか、とんねるずさんの『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』にも出させてもらって、今に至るという感じです。
病室で偶然見た『男はつらいよ』に不安な毎日を癒やされる
寅さんを好きになったきっかけを教えてください。
大きな病気を患って入院していたことがあって。病院って夜の消灯が早いので、することないからテレビをつけたら寅さんがやってたんです。もともと小津安二郎作品とか、日活ロマンポルノとか、昭和の映画が大好きだったので、寅さんもいつか見なきゃとは思っていたんです。
その時は吉永小百合さんがマドンナで「わあ!小百合ちゃんかわいい!」って夢中になって見てたら、最終的にいつのまにか寅さんに癒やされてたんですよ(笑)。
大病なので手術も必要でしたし、当時はすごく不安で怖かったんですけど、そんな心細い気持ちがすっかり癒やされてて。「これは寅さん全部見なきゃ!」って。
寅さんのどのあたりに癒やされたのですか?
寅さんって、毎日を面白おかしく生きてるじゃないですか。「人生そんなに大層なこたぁないよ、深刻になるなよ」って言ってくれているよう気がして。寅さんを見てたら「これからどうなっちゃうんだろう?」っていう不安な気持ちが軽くなりましたね。
退院してからは48作を順番に全部見ましたけど、最初に見た1作目でもう完全にKOですね。「ああ!わたしこの映画全部大好きだ!」って。1作目はもう何回見たかわからないくらい大好きです。
芸人視点から見る、喜劇役者・渥美清のすごさとは
芸人という視点から見て、渥美清さんはどんな芸人でしょうか?
渥美さんは、あの愛嬌あるお顔が本当にかわいいし、登場しただけで「面白いことやってくれそう」っていう期待感がすごいし、ただのセリフも渥美さんが言うだけで相当面白くなりますよね。渥美さんを見て「これが芸人なんだわ」って思いましたね。
他の芸人さんと何が違うんでしょうね。
芸が小手先じゃないというか、テクニックだけでは絶対に出せない面白さがありますよね。
森繁さんも森川信さんも、あの時代の喜劇人みなさんに共通しているんですけど、自分の個性や歩んできた人生が芸に出ているから説得力があるんですよね。自分の芸で笑わせているのか、それとも演出や脚本で笑わせているのか、そこには実写とCGぐらいの差がありますよ。
わたしが思う究極の芸人って、「どんな台本でもその人が演じたら面白くなる」という芸人なんです。例えばこの居酒屋のメニュー一つとっても「わたしが読んだら面白くなるよー?」って。
渥美さんは寅さんでそれをやっているんですよ。寅さんの笑いって、悪口を言ってたら後ろに本人がいたとか単純なものが多いんですけど、それでも笑っちゃうのはやっぱり渥美さんだからだと思いますね。
渥美さん主演じゃなかったら、山田洋次監督の脚本がどんなに素晴らしくても48作も続かなかったでしょうし、本当にものすごい芸人なんだなあって思います。
同じ女として、寅さんと仲良しのリリーがうらやましい
インタビュー後半戦へ いい感じに酔っ払ってきました
まなてぃさんのベストマドンナを教えてください。
やっぱりリリーですね。わたしは寅さんが大好きなので、寅さんとあんなに仲良くなれて同じ女としてうらやましいっていう単純な理由です(笑)。
他のマドンナにも寅さんへの愛はあったと思うんですけど、どのマドンナよりも寅さんへの愛が強くて、しかも深い縁を感じる。愛情と縁の深さを二つ持っているのはリリーさんだけですね。
女性ならではの視点ですね。
女のわたしからすると、リリーが一番いい女だってわかるんです。寅さんなんてはっきり言って中身は子供ですよ?メロンがなくて怒るとか、好きな人の前でモジモジするとか。去勢の張り方ばかり覚えている小学生男子みたいなんですけど、そういうところまで包みこんであげられる女がリリーですよ。リリーはとってもいい女なのに、なんで男はわかんないのかしら(笑)。
寅さんとリリーのやり取りで好きなシーンはありますか?
『寅次郎紅の花』(48作)なんか素敵ですよね。「男が女を送るっていう場合にはな、その女の家の玄関まで送るっていうことよ」っていうシーン。もう胸がキュン!ってしすぎて心臓が止まるかと思いました(笑)。こんなこと言える男どこにいるのよー!って。
あとは『寅次郎相合い傘』(15作)で「リリーに大きな舞台で歌わせてやりたい」っていうシーン。なんて優しい気持ちなの!って感激しました。その後さくらが「リリーさんに聞かせてあげたいわ」って言うんですけど、「ほんとだよ!お前リリーに直接言えよ!」って寅さんにツッコんだりして(笑)。やっぱり寅さんとリリーはいいですよね。
※以下、まなてぃさんによる「寅さんとリリーの名シーン再現」が30分ほど続きました。爆笑の完コピ具合でした。
寅とリリーの名場面をうっとり語るまなてぃさん
「国民の子供」寅さんをかわいいと思えなくなったら、日本国民は終わり
最後に、寅さんの魅力についてうかがいたいと思います。
寅さんって、周囲から見るとエキセントリックで相当面白い人なんですけど、彼自身は決して笑わせようとは思っていなくて、ただ一生懸命生きているだけなんです。その上、あんなゲタみたいな顔のくせして、どこか二枚目を気取って生きているのが最高に面白い。
極めつけが、あの愛嬌のある笑顔ですよ。もうなんて愛おしいのかしら(笑)。寅さんの魅力はそこに尽きるなあ。
「ただ一生懸命生きてるだけ」って面白いですね。
わたし、満男に説教する寅さんが結構好きなんです。寅さんっていいこと言うんですけど、ツッコミどころだらけじゃないですか。特に恋愛の説教になると完全に「お前が言うなよ!」って(笑)。
まったく同じことをスキのない偉い人が言ったら「うるせえ!」ってただの説教でしかないですけど、寅さんの場合「お前が言うか!」っていうツッコミと、あの愛嬌がありますから、心にすうっと入るんですよね。これはもう寅ちゃんマジックですよ(笑)。
寅さんって本当に子供みたいなんです。だって子供ってみんなそうじゃないですか。憎たらしい時もあって、悪いことをしたら叱るけど心底まで嫌いになれない、結局は愛してしまうという。人の母性本能、父性本能をくすぐるんです。だから寅さんは子供なんです。「国民の子供」ですね。
そんな国民の子供である寅さんをかわいいと思えるセンスがなくなったら日本国民は終わりです。日本人の元来良いところは、こういうダメな人に対して懐が深いってところなのに。落語がいい例ですよ、落語に出てくるやつはだいたいダメ人間ですから(笑)。こういうダメな人をいかに愛することができるか。それが日本人の優しさですよ。
寅さんが国民栄誉賞をとったのもそういうことです。何かやらかしても「だって寅ちゃんだもん、しょうがないよ」と許せるような母性、父性を育んできた功績があるわけですよ。
まさに国民の子供だったから国民栄誉賞をとったんだって。そう思いますね。
まなてぃさん 略歴
【生年】1976年生 大分県出身
【職業】お笑い芸人(ソーレアリア所属)
【趣味】編み物、昭和の映画・ドラマ鑑賞(大映ドラマ、寅さん、日活ロマンポルノ等)
【ものまねレパートリー】美空ひばり、一青窈、綾戸智絵、スチュワーデス物語の堀ちえみ、昭和の女優、他
【寅さん歴】6年 【好きな作品3つ】第1作『男はつらいよ』/第17作『寅次郎夕焼け小焼け』/第25作『寅次郎ハイビスカスの花』 【ベストマドンナ】リリー松岡(浅丘ルリ子) 次点:ぼたん(太地喜和子)
まなてぃさんへのお仕事のご依頼、ライブ出演情報などは下記よりどうぞ
まなてぃ公式プロフィール(ソーレアリア事務所Webサイト)
まなてぃツイッター @manaty5or6
「寅さんとわたし」トップに戻る |
2016/06/01