寅さんファンに聞く「寅さんとわたし」第2回~目黒シネマ支配人・宮久保伸夫さんの巻

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今回のゲストは、目黒シネマの支配人・宮久保伸夫さんです。

東京の名画座が次々と廃館する一方で、映画監督を招いたトークショーやTwitterを用いたプロモーションなどで常に新しい話題を振りまき、来年には創業60周年を迎える目黒シネマ。

目黒シネマが元気であり続けられるのはなぜなのか?イチ映画ファンとしてとても気になる質問にも、真正面から真摯にお答えいただいたのが非常に印象的なインタビューとなりました。

寅さんファン的には、「男はつらいよ」の公開当時、劇場スタッフとしてその場に立ち会っていたという宮久保さんの臨場感たっぷりのお話に注目です。「寅さん=国民的映画」の呼称はダテではなかったのです!

取材日:2014年9月22日
取材場所:目黒 居酒屋 蔵(くら)

寅さんはやはり1作目、名優・志村喬の出演シーンが印象深い

megurocinema01目黒シネマ支配人・宮久保さんの似顔絵ハンコ
(作:目黒シネマスタッフ・夕涼庵子さん)

今日はよろしくお願いします。

ええ、もう何でも聞いてくださいね!

前回の「寅さんとわたし」には、目黒シネマスタッフの夕涼庵子さんにご登場いただきました。面接で「寅さんが好き」と答えたのが採用の理由じゃないかと夕涼さんはおっしゃっていたのですが、支配人は当時のことを覚えていますか?

ええ覚えてますよ。彼女はアルバイト面接の時、好きな映画を聞いたら「寅さんを毎日観てる」っていったんですよ。

ははは!すごい回答ですね。

「寅さんを毎日観てる」っていうのが、一瞬どういうことか意味がわかんなくて(笑)。「何だこの子は?」と。その印象がすごく強かったのを覚えています。

アルバイト採用の倍率は高いのですか?

目黒シネマで求人を出すと、1名枠にだいたい25名前後の応募があって、今はTwitterなんかでも告知してますから70~80名は応募がきます。彼女はとても真面目な印象でしっかりとした受け答えをしていましたけど、もし寅さんの話をしてなかったら、ひょっとしたらそこまでの印象は残っていなかったかもしれないですね。

支配人ご自身は寅さんをご覧になったことは?

当然観てますよ。初めて観たのは子供の頃、確かテレビで、その後はDVDで初期作品を中心に観てます。やっぱり1作目が一番好きですね。志村喬さんが出てくる博の結婚式シーンなんかは特にいいですよ。

でも、寅さんに関しては純粋な鑑賞より、どちらかというと映画の仕事をはじめてから、劇場スタッフとしてお客さんと一緒に観た記憶の方が印象深いですね。

立ち見続出!満員御礼の「お正月の寅さん興行」

それはどのような思い出ですか?

僕は目黒シネマの支配人になる前、20代の頃は松竹系の劇場でアルバイトしてたんですよ。お正月には寅さんハッピ着て「いらっしゃいませ~!」っていってましたから。

それはすごい!

今の新宿ピカデリーが改装する前、あそこには「新宿松竹」という地下劇場があって、そこで働いてたんですよね。山田洋次監督も来てましたよ。

僕は正月の寅さん興行のもの凄さを実体験していますから。当時、「新宿松竹」ってキャパが500から600席はあったと思うんですけど、すぐにギッチギチの満員になっちゃって、もう扉が閉まらなくなるんですよ。

扉が閉まらないって、今の劇場ではありえない状況ですね。

それでもお客さまがひっきりなしにやってきて、「すみません立ち見になります」と案内しても、「いいよいいよ!立ち見だなんて正月から景気がいいね!」ってみんな入るんですよ。もうみんなノリがほとんど寅さん。それが粋で粋でたまんなくて。

今だったら怒って帰っちゃいますよね?それが「立ち見?なおいいね!」っていってくれるんですよ。のんびりロビーで待って、お菓子なんか食べて、じゃあそろそろ映画観る?なんて感じで劇場に入って、それからガンガン笑って、最後に「ありがと!」って帰っていく。今だったらそんな映画ないですよね。寅さんスゲェ!って。

いい光景ですね。

寅さん興行は特別中の特別でした。他の邦画では考えられなかったですよね。「日本人はこんなにも寅さんを愛しているんだ」と実感しましたし、あそこまで人に愛される俳優は他にいないっていうのが、もう身に染みてますよね。

「寅さんを観に来た」ではなく「寅ちゃんに会いに来た」というお客さん

そのお話は、寅さんシリーズでいうといつ頃のお話ですか?

僕は渥美清さんが亡くなる少し前から劇場スタッフでしたから、ちょうど寅さん晩年の頃ですね。もう二十数年前ですか。

渥美清さんも年齢的にも体調的にもかなり大変な中で撮影に挑んでいたっていうのも知っていたので、現場ではいろいろと複雑な思いを抱えながら働いてたんですよ。

だけど、「そんなことはお客さまに少しも感じさせちゃいけない。映画が完成したらみんなで『おめでとう!』ってやるんだ」って支配人にいわれて。だからいざ封切りになると寅さんハッピを着て「いらっしゃいませー!」って。明るくやってましたねえ。

いわゆる「寅さん=国民的映画」という評価は、本当にその通りだったようですね。

「国民的映画」というのはまさにぴったりの表現ですよ。お客さまがみんな本当に毎年待ってるんですから、寅さんを。

面白いのは、お客さまはみんな「寅さんを観に来た」っていわないんですよね。「寅ちゃんに会いに来た」っていうんです。だから僕らは「待ってましたよー!どうぞ会ってください!」っていうんです。ハッピ着て(笑)。

みんな昔っから寅さんが大好きで、「正月は寅さん」というのを続けていた人たちなんで、お年寄りの方がつえをついて、車いすでも映画を観に来る。それをわれわれはおんぶして席までご案内したりしていましたね。

今では寅さんのような作品がないので、あんな光景はもう時代とともになくなってしまったのかなーという寂しさは若干ありますね。

名画座不遇の時代に、目黒シネマが元気であり続ける理由

今、東京の名画座がどんどん閉館していますが、そんな中で目黒シネマが元気でいられる秘訣はなんでしょうか。

いろいろな要素があると思うんですが、僕は目黒シネマを「映画館」ではなく、「映画を商品としたお店」を作るんだという感覚でいます。なので、「映画館はこうであるべき」という固定的な考え方はあまりないんです。

一週間か二週間のスパンで上映作品が替わるのに、映画ハンコを作ったり、主演俳優のポスター展をしたり、フィルモグラフィーを作ったり、従業員みんなでコスプレしてブログにアップしたりと、映画館がそこまでやる必要はないといえばないんですよね。

でも、目黒シネマに来てくださったお客さまには最大限楽しんでもらいたい。そのためにいろいろなことに本気になって取り組んでいるので、そこをお客さまに評価していただいているのかなと思います。飲食店では料理やお酒を出しますが、われわれは無形のものを提供しているので、その分難易度は高いですけどね。

「映画館」ではなく「映画を商品にしたお店」というのは面白い感覚ですね。

大げさにいえば、小さくても「世界を作る」という感じですね。ディズニーランドは世界観が確立されていて「夢の世界へようこそ」という感じですよね?目黒シネマはディズニーランドほど大きくはないけれども、現実から映画の世界へと入っていただくために入り口の階段から演出をはじめています。

階段を下りる時から映画を観る気持ちを作っていただいて、作品に感動して、ロビーのポスター展もご覧いただいて、映画図書館の本も見ていただいて、時間があれば同時上映も観ていただいて、目黒駅まで幸せな余韻にひたってお帰りいただくと。

映画が素晴らしければ家に帰って眠るまで感動は続きますから、そこまで続くんだと思って映画館づくりに取り組んでいます。

目黒シネマを、さまざまな芸術に触れあえる文化の場にしたい

今後の目黒シネマの展望を聞かせてください。

目黒シネマを、目黒の地下にある小さな文化の場にしたいと思っているんですよね。小さくて派手さはないけど、映画館、図書館、美術館もあると。「映画目当てで来たのに、知らなかった作家の絵や写真にも出会えた」というように、いろんな芸術に触れることのできる、広がりのある映画館を目指しています。これがまず前提にあります。

その上で、映画監督と映画ファンがなるべく触れあえる場にしたいなと思っています。いわゆるシネコンの舞台挨拶は距離が遠いですよね。でも、目黒シネマでは監督を招いたトークショーで、彼らが2時間も3時間も劇場に残って、サインをして、握手をして、ファンの質問にその場で答えてくれるんです。普通ではありえないことだと思うんですよね。お客さんにとっては生涯の思い出になる。そのための場としても存在したいなと思っています。

目黒シネマには良き名画座として、ずっと元気であり続けていてほしいと思います。

ご期待に添えるように努力します。僕、なぎら健壱さんが好きなんですけど、あの方の本の中に「飲み屋さんが好きだ、できれば古くて汚いところが好きだ、古くて汚いところには風情がある、古くて汚いのにつぶれないのはファンがいるからだ、僕はそこもふくめて酒場が好きだ」という一節があるんです。

お金をかければ新しくてすごい映画館はいくらでも作れると思うんですが、歴史の積み重ねが生む風情や、その風情を愛するいいお客さまはお金では作れないと思うんです。目黒シネマは来年で60周年になりますが、60年間のれんを守るために積み重ねてきた努力は誰にも負けないぞという誇りを持ってやっています。

映画館づくりを真剣に、全力で、スタッフみんなで取り組むというのが、目黒シネマのコンセプトですね。

宮久保支配人、今日は本当にありがとうございました。

ちょっとしゃべりすぎでしたか?(笑)

いいえ!とんでもない。

もうね、取材でもなんでも、来ていただいた方にはおなかいっぱいになっていただきたいんで(笑)。「いつも腹ペコ二本立て」の目黒シネマですから。

目黒シネマ公式ツイッター @megurocinema
目黒シネマFacebook  https://www.facebook.com/megurocinema.official

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      2016/06/01

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