寅さんファンに聞く「寅さんとわたし」第1回~映画ハンコ職人・夕涼庵子さんの巻

yusuzumi09寅さんハンコ 制作:夕涼庵子

「寅さんとわたし」記念すべき第1回目は、東京は目黒にございます名画座・目黒シネマで働くハンコ職人、夕涼庵子(ゆうすずみ あんこ)さんを迎えてお送りします。

目黒シネマのこだわりの一つであるオリジナル「映画ハンコ」は来場者に大人気でありまして、これを制作しているのが今回ご登場いただく劇場スタッフの夕涼庵子さんです。

2013年『男はつらいよ』上映時に制作された寅さんハンコは、そのクオリティの高さに加えて、初代・満男こと中村はやと君までしっかりフィーチャーされており、夕涼さんの深い寅さん愛がひしひしと感じられる出来栄えでした。

今回は目黒シネマ様のご厚意により、目黒シネマ館内の一部をお借りして、お仕事終わりの夕涼庵子さんにお話をうかがいました。

取材日:2014年9月22日
取材場所:前半:目黒シネマ(公式サイト)/後半:目黒 居酒屋 蔵

ハンコ作りのきっかけは、支配人の「なんか作ってみてよ」

yusuzumi01お仕事中の夕涼庵子先生

以前、目黒シネマで『寅さん』が上映されたのは、どんな経緯だったんですか?

山田洋次監督の『東京家族』を上映することが先に決定していて、じゃあ同時上映は同じ山田監督作品で『寅さん』で行こうと。それで、上映作品を私が選ばせてもらうことになったんです。

上映した『寅次郎相合い傘』(15作)については「一番の名作です」と支配人にお薦めして、それで『相合い傘』になったんです。

あの時の寅さんハンコは秀逸な出来栄えでした。そもそも映画ハンコを作るきっかけはなんだったんですか?

上映作品にあわせて劇場の飾り付けを手作りすることが多くって、ダンボールをヒトの形に切って貼りものをして展示したりとか、いろいろやってたんです。

その流れで、「もうちょっとウチの個性を出したいよね」と支配人にいわれて、「手作りハンコなんかどうです?」と提案したら、「じゃあなんか作ってみてよ」と(笑)。当時上映してたのが『グラン・トリノ』だったんですけど、まあ車ぐらいなら不慣れだけどできるだろうと思って。それがきっかけですね。

yusuzumi05夕涼先生のデビュー作『グラン・トリノ』

『桐島、部活やめるってよ』の時は、手が神がかっていた

もともと美術系の素養がおありなんですか?

いいえ全然(笑)。全然なかったんですけど、やってみたら意外にできたなあと思って。スタッフの間でも好評で、それからハンコが定番になった感じです。

次に作ったのがはじめてヒトの顔に挑戦した『南極料理人』の堺雅人さん。これですね。

yusuzumi07夕涼先生の人物デビュー作『南極料理人』

yusuzumi06『クヒオ大佐』など堺雅人シリーズ

映画ハンコで印象深い思い出などありますか?

そうですねえ。『桐島、部活やめるってよ』の時、登場する生徒を全員作っちゃったことがあって(笑)。メインキャラは3,4人なんですけど、その他のサブキャラも全部いっぺんにバーッと。その時はなんだか手が神がかってましたね(笑)。

ははは!どうして手が神がかったんでしょうね。

最初につくった主演の神木くんがわりとうまくできて、このままこのクオリティを保たなければ!と緊張感が持続したんでしょうかね。目黒シネマで上映した時に吉田大八監督をお招きしてトークショーをしたんですけど、監督も喜んでくれて。お客さんにも好評でしたね。

yusuzumi08夕涼先生渾身の『桐島~』劇場内POP

yusuzumi02事務所内のハンコケースには作品がぎっちり

目黒シネマで働きはじめたきっかけは?

実家が近所なんですけど、バイトを探してた時に偶然目黒シネマがバイトを募集してまして。以前から好きな映画館だったので「ここなら間違いない!」と思って応募しました。

映画館のバイトは倍率高そうですが、採用の決め手はなんだったんですか?

面接の時に好きな映画を聞かれて、それで「寅さん」って答えたんですよ(笑)。のちに聞いた話だと「若い女の子で寅さん好きだなんて珍しい」って面白がってもらえたらしくて。私がここにいるのもある意味寅さんのおかげかもしれませんね。

あえてリリーを避けて、他のマドンナから「寅さん」を見始める

yusuzumi03安居酒屋に場所を移して、インタビュー再開

寅さんを初めて観たのはいつ頃でしたか?

当時大学生だったんですけど、柴又の方に住んでいる知人がいて。その人のおうちに遊びに行った時に「寅さん記念館」に連れていってもらったのがきっかけでしたね。そこで初めて寅さんを知って。

それまでは寅さんっていう存在ぐらいしか知らなくて。ラブストーリーだとか、フラれるだとか、そういうのも全然知らなかったんですよね。それでなんだか面白そうだなと思って借りて観たんですよ。

寅さんって型があるじゃないですか、ストーリーの。そういうのになんかいちいち反応しちゃって。「なんで夢からはじまるの?」とか(笑)。一緒に観た人に「それが定番なんだよ」って教えてもらったんですけど、型が決まってるのにこんなに作品数があるってことは、別パターンがもっとあるの?と思って。

それからは一人で黙々と。ドドドドドっと見始めましたね。

寅さんにハマったという実感はいつ頃からありました?

ハマったのは、リリーを観た時ですかね。最初はなぜかリリーを避けてたんですよ(笑)。多分この人が最終的なマドンナなんだろうなって思ってたんで、じゃあ先にリリー以外の作品を楽しもうと。それで何作か観たんですけど、やっぱりリリーをガマンできなくて(笑)。他のマドンナとリリーは何が違うんだろうって思って、それで確か『相合い傘』を観たんです。

リリーは他のマドンナとやはり違いましたか?

そうですね~。寅さんとリリーはケンカとかするじゃないですか、他のマドンナとは全然そういうことしないのに。だから面白かったですね。別格でした。リリーの魅力にやられましたね(笑)。

「寅さん」のおかげで、家族というものをはじめて客観的に見ることができた

普段はどんな映画をご覧になるんですか?

小津とか成瀬とか、日常生活とか家族を描く作品が好きですね。家庭、家族みたいなテーマは昔から好きで、お芝居を見る時も家族をテーマにしているものを見に行ったりしてますね。

寅さんでもまさに家族が描かれていますよね。

そうですね、家族のあの感じ……。なんか家族って、他人から見たら爆笑なのに、本人たちにとってはすごく深刻なことがあったりするじゃないですか。そういうものをはじめて客観的に見たという感じがしますね。

寅さんの「メロン騒動」なんてまさにそうですよね。

寅さんを観る前と今の自分を比べると、家族の出来事を一歩離れて見るということができるようになった気がしていて。昔だったらすごく深刻になって悩んじゃうような家族のことも、今だったら「そういうこともあるよね」みたいな感じで受けとめられるというか。

映画を通して別の家族を客観的に見ることで、自分の家族も客観的に見ることができるようになった、ということなんでしょうか。

そうですね、それはありますね。自分の年齢とか経験も影響してると思うんですけど。

寅さんみたいな人もいるんだと思うと、心が軽くなる

今でも寅さんを日常的に観ますか?

今も気が向いたらよく観てますね。最近はちょっと観れてないですけど、ちょっと前までは落ち込んだりした時に観てましたね。

落ち込んでいる時ってなんだか自分に余裕が足りないと思うんですよね。それで、寅さんみたいに適当なのに上手くいってる、いや上手くいってるかどうかわかんないですけど(笑)、そういう要素を自分に取り入れたいなあと。

もし自分に寅さんみたいなお兄さんがいたら、相当深刻だと思うんですよ。人には絶対言えないし言いたくないし(笑)。それなのに寅さんはなぜだかみんなに愛されている。こういう人もいるんだなーと思うと、心が軽くなるというか。落ち込んでいる時に寅さんを観たくなるのは、そういうことなんでしょうね。

興味深い寅さんの味わい方ですね。本日はどうもありがとうございました。

夕涼庵子さん 略歴
【生年】1981年生 東京都出身 【職業】ハンコ職人 【趣味】散歩

【寅さん歴】10年

【好きな作品3つ】第17作『寅次郎夕焼け小焼け』/第27作『浪花の恋の寅次郎』/第32作『口笛を吹く寅次郎』

【ベストマドンナ】1位:松坂慶子 2位:大原麗子 3位:竹下景子

【好きなシーン】帝国ホテルで寅さんと生みの母親であるお菊が再会し、寅さんが部屋ではしゃいで怒られるシーン。(第7作『奮闘篇』)/とらやに居候することになった外国人セールスマン・マイケルが寅さんと出会うシーン。(第24作『寅次郎春の夢』)

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      2016/06/01

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