山田洋次をしみじみ味わうシリーズ#2 横長画面を目一杯使った至芸「シネスコ芸」を堪能するの巻

映画には大きく分けて3つの画面サイズがある。

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緑がIMAXに採用されているスタンダードサイズ。赤が現在主流とされているビスタサイズ。そして青がスコープサイズ、通称「シネマスコープ」「シネスコ」と呼ばれるもの。そして、山田洋次監督はこのシネマスコープをこよなく愛する映画監督として知られている。

男はつらいよシリーズは全作品シネマスコープで製作されており、作品の至る所にシネスコを有効活用した印象的なカットが数多く見られる。これらはもはや「シネスコ芸」といってもいいほど特徴的なものであり、寅さんシリーズにはなくてはならない要素の一つといえるだろう。

本エントリでは、そんな至芸「シネスコ芸」の数々をご紹介していきたい。

なんといっても、とらやのお茶の間

最も特徴的なのは、やはりとらや(くるまや)のお茶の間シーンだろう。シネスコの端から端、奥行きまでも目一杯使いながら、画面にたくさんの登場人物を収めていく。

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このお茶の間シーン、機会があればぜひ映画館のスクリーンでご覧いただきたい。寅さんを中心に弾む会話の中で、いきなり端からぬっとタコ社長が登場したかと思えば、「それはつまり……」とさっきまで遠景にいたはずの博が突然目の前に飛び出してくる。メガネをしていないのに3D映画に近い感覚があって、シーンには不思議な躍動感とライブ感が生まれる。

小さなテレビ画面ではこの良さはわかりづらい。少なくとも登場人物の顔が原寸大サイズで表示されるスクリーンでの鑑賞をお薦めしたい。お茶の間の弾むような楽しさ、賑やかさを伝える「シネスコ芸」の真価にきっとお気づきいただけるだろう。

ストーリーの要所で挿入される美しい風景

ストーリーの展開点における美しい風景のカットインも、代表的な「シネスコ芸」の一つといえる。

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ケンカした寅さんが柴又から旅先へと至る場面では、旅情溢れる風景を挿入することで映画のスケール感をぐっと押し広げる。作品のテンポを「動」から「静」へと切り替えるために、ここでまるまる2分ほどセリフ無しで風景カットを続ける作品もある。

寅さんのしんみりした心象を風景で代弁することもある。

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第10作『寅次郎夢枕』では、テキ屋仲間を弔う寅さんの寂しさを、印象的な秋の山々を映し出すことで表現している。舞い落ちる枯葉、流れ行く雲、暗い冬の訪れを想起させる山々が、世の無常を感じさせる。

一方、ラストシーンで晴れやかに広がる青空のカットは、男はつらいよシリーズお約束のひとつで、鑑賞後のヌケの良さに多大なる貢献をしている。

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写真は第16作『葛飾立志篇』のラストシーン。中央の富士山が晴れやかな気分を盛り上げ、シネスコの端ギリギリに映る「船着場」の赤い旗、旅人を見送る家族の姿が旅情を演出している。右下に置かれたみかんの喰いカスなんかも芸が細かいなー。

第13作『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』より

最後に、シネスコをつかった面白いシーンをご紹介しよう。

第13作『寅次郎恋やつれ』における団らんシーン。ここでは寅さんがみんなに食後のコーヒーを淹れてあげるという、ありがた迷惑以外のなにものでもない親切心を発揮する。

残念ながらというかやっぱりというか、寅さんの作るコーヒーは粉入れすぎの激ニガコーヒーとして完成。

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まずは博が最初の犠牲者として撃沈する。

続く犠牲者はマドンナ歌子(吉永小百合)。

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画面の右端で、恐る恐る寅さんのコーヒーに口をつけ、控えめに「あっマズイ!」という表情を見せる。

このシーン、メインはあくまでマドンナを囲んでの会話にあるのだが、寅さんの激ニガコーヒーがシネスコの端に映るか映らないかの加減で、会話と同時に地味に進行していくのがおかしくてたまらない。

これらの「シネスコ芸」、初見では意識的に発見できないものも多いが、細部に宿る意匠は作品の印象に大きな影響を与えている。これら細部のこだわりを発見していくのも、寅さんシリーズ2周目以降に突入した人に許される、ささやかな楽しみといえるだろう。

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      2016/06/03

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