『小さいおうち』/監督・山田洋次

山田洋次監督の最新作『小さいおうち』観了。せっかくなので普段あまり行くことのない、松竹映画の本丸ともいえる丸の内ピカデリーにて鑑賞した。

個人的には大満足の出来栄え。後述するが、なんといっても倍賞千恵子の"泣き"が本作のみどころだと思う。時間を忘れて没頭できる、意外にもスリリングな作品だった。

本作は「山田洋次、初のラブストーリー」というフレコミだが、ひとことに恋愛映画とは言い切れない。ロマンスとも、ミステリーとも、人間ドラマともいえる諸要素がバランスよく収まっている。登場人物に思想を語らせる"山田節"も健在で、その点では戦争映画ということもできる。

映画は昭和と平成を行き来しながら進行する。昭和パートは、モダンな建築、美しい和服に彩られ、かつての日本は本当にこんな国だったのかと思わされる。もはや異国。細部の意匠へのこだわりは山田組ならではで、昭和モダンと山田演出の相性の良さを感じさせる。

本作の上映時間は2時間強だったが、気がつくとあっという間にラストシーンを迎えていたのは予想外だった。じわじわ悪化していく戦局と、女中タキが見つめる若奥様の許されざる恋が、映画全編にピーンと心地よい緊張感をもたらしている。想像以上にスリリングな展開なのである。

笹野高史、林家正蔵、中島朋子ら、たったワンシーンのみ出演の脇役たちも、映画に印象的なアクセントを与えていて飽きさせない。上映中に"時間"を感じなかった映画は、ここ数年でちょっと記憶にない。もうちょっともっさりした映画だと思っていたから(失礼)、これは新鮮な驚きだった。

最大の見せ場は、作品の重要なモチーフである"あるもの"の崩壊が緊張のピークをもたらす直後。ハッと呼吸を忘れ、何が起こるかと意識をスクリーンに集中していると、映画冒頭から続いていた倍賞千恵子の抑えたモノローグが突然の激昂、嗚咽をむかえる。この瞬間、私の涙腺も完全に崩壊した。

倍賞千恵子の泣きは、いい芝居だからとか、いい脚本だからとか、そういう頭で理解するレベルを超えている。人間のむき出しの感情そのものであり、直接本能に訴えかけてくるものがある。黒木華も、松たか子も、吉岡秀隆も、存在感のあるいい芝居をしていたが(特に黒木華はよかった!)、倍賞千恵子のあの泣きには、やはりどうしたってかなわない。

おとなしめのタイトル、戦前・戦中という設定のため、鑑賞前にはどうしても地味な印象を覚える作品ですが、なかなかどうして、心地よい緊張感に包まれた、スリリングな映画であった。『おとうと』『東京家族』と続く、直近の山田作品の中では、一番好きな作品である。

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      2016/06/01

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