リチャード・ギア版寅さんの舞台ウラ~オランジーナCM仕掛人のインタビューを読む

リチャード・ギアが寅さんを演じるCMでお馴染みの「オランジーナ」。そのCMのクリエイティブ・ディレクター高崎卓馬氏のインタビューが日経ビジネスONLINEに掲載されていた。

このインタビュー、ビジネスマンのみならず、男はつらいよファンにとっても面白い内容だったのでご紹介したい。インタビュー全文はこちらから。「”寅さん”を、フランスの国民的飲料の広告に起用したわけ」(全文読むには日経ビジネスONLINEへの会員登録が必要です)。

フランスでは有名なオランジーナも、まだ見ぬ日本人にとってはただのオレンジジュース。すでに先行する競合がひしめくオレンジジュース市場のなかで存在感を出すため、高崎氏はこんな風に考えたのだという。

高崎:オランジーナは、フランスの国民的炭酸飲料です。その「フランスの国民的炭酸飲料」というコンセプトについては、マーケットに嵌まると思ったんです。

ですから、キャンペーンの根幹には、「フランス」というキーワードを設定して、そこの部分のコミュニケーションは大事にしたんです。「新商品」ではなく、「フランスの定番」に見えるようにする、と。

日本の国民的なものがフランス版になっていれば逆に面白い、と。見たことのないものがそこにある感じと、見てよかったと思える内容を両立させるものが、表現の根っこには必要なんです。

オランジーナでは、「寅さんのフランス版、どう?」と、自分で口にした瞬間、いけそうだなと思いました。

しかし、広告コンセプト「寅さんのフランス版」が実現に至るまで、その舞台ウラには様々な苦労があったという。それは、男はつらいよ原作者である山田洋次監督の許諾を得ることと、フランス版寅さん=TORAを演じるリチャード・ギアのブッキングだった。

高崎:まず、映画の「寅さん」の原作者である山田洋次監督を口説くところから始まりました。1カ月に1、2回の割合で山田監督の許に通って、寅さんの話やコンテの話、編集の話や演出の話など、いろいろなことを学ばせてもらいました。

山田監督の許には許諾を得るために通い始めたんですが、いつの間にか映画学校の個人授業をみっちり受けているようになりましたね(笑)。 

山田監督からは「僕はしつこいって有名なんだけど、君の方がしつこい」と言われました。

やがて山田監督の了承を得た高崎氏は、リチャード・ギアへの出演依頼を行う。しかし、ここでも苦労があったという。

高崎:山田監督からは、「高崎くんが自分できちんと『寅さんとは何者か』をリチャード・ギアに伝え、理解を得た上で演じてもらうように」と厳命されていました。 

キャスティング担当の人に実質的な出演交渉をしてもらった後に、すぐ本人に会いに行ったんですが、最初はあの寅さんのジャケットを羽織ることを納得してくれませんでしたね。 

日本人には、ジャケットを羽織っている姿こそが寅さんで、それだけは重要な要素だから譲れません」と何度もお願いして。渡した資料の中に、羽織っていない写真があったりしたんですが、その写真に僕らもわざと驚いて見せたりして。

「リチャード・ギアには、寅さんを理解した上で演じてもらうこと」という山田監督の注文には、オリジナルのイメージを大切にしたい監督の意向がよく表れている。リチャード・ギアは結局この役を引きうけることになるが、果たして一体どこまで「寅さん」という人物を理解できたのだろうか……。

さまざまな苦労を経てオランジーナCMは完成し、2012年に公開される。結果として、オランジーナはバカ売れ!発売後1カ月で年初計画の200万ケース、発売後3ヶ月で423万ケースと早々に計画の倍を達成。年間販売計画を800万ケースに上方修正する大ヒット商品になった。

最後に、この一連のプロモーションを総括した高崎氏の一言をご紹介しよう。普段何気なく見ている広告も、そのウラには仕掛け人の壮絶な苦労があるのだ。

高崎:あんまり言いたくないのですが、この仕事は自分の人生の中でも、最大に壮絶なものの一つでした。でも、他の人じゃできないことを達成すると、その広告は他にない唯一のものになります。もう、ただそれだけを思いながら、スタッフ全員で最善策を取り続けました。困難って人間の力を引き出すんですかね(笑)。

ちなみに、このCMの件を伝えているwebメディア「JAPANTODAY」の記事では、寅さんのことをこんな風に紹介していた。

Tora-san, the lovable loser in Shochiku’s popular 48-film series of Japanese comedy movies.

寅さんは、愛すべき負け犬!

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      2016/06/01

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