ヒドいよ寅さん!フラれたマドンナが可哀想すぎる『男はつらいよ』この3本

『男はつらいよ』をあまりよくご存知ない方は、寅さんはいつもマドンナにフラれる、という認識をお持ちかもしれない。かくいう私自身もそうであった。だから、男はつらいよシリーズにハマり、1作目からスタートして第8作「男はつらいよ 寅次郎恋歌」を見たとき、明確にフラれないままに旅に出る寅さんを見て「今回の寅さんはフラれないんだ!」とかなり驚いた記憶がある。

その後もシリーズを見続けて行くと、フラれないどころか、寅さんからフっているのとほぼ同等のヒドい行為をマドンナにしている回が結構ある。今回のセレクションでは、寅さんにヒドい仕打ちを受け、可哀想すぎるマドンナが美しく描かれる男はつらいよ3本をご紹介したいと思う。

寅さんに期待し、それが裏切られた時のマドンナの一瞬の表情は実に美しい。「可哀想なマドンナ」と書いておきながらも、その瞬間の美しい表情こそが、このセレクション最大の見どころである。

ヒドいよ寅さん!フラれたマドンナが可哀想すぎる…『男はつらいよ』この3本 その1

第10作 『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972年)

寅さんがマドンナに惚れられるという、男はつらいよシリーズ初のパターンとなる作品。

クライマックスの公園シーン。寅次郎から愛の告白、結婚の申し込みを受けるのではないか?そんな期待に満ちたマドンナお千代(八千草薫)のいじらしい表情が素晴らしい。

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寅「おおかた察しはついているだろう。お千代坊は勘がいいから。え?」
千代「それは…まあなんとなく…。」

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木目を指でなぞる仕草にお千代さんの密かな期待が見てとれる。しかし、お千代の期待は見事に裏切られてしまう。寅さんの乱暴なプロポーズは、とらや居候中の岡倉先生の代理プロポーズだったのである。そこで、お千代は寅さんへ本当の気持ちを告白する。

千代「私ね、寅ちゃんと一緒にいるとなんだか気持ちがほっとするの。寅ちゃんと話をしてると、ああ私は生きているんだなあって、そんな楽しい気持ちになるの。寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいいって、今ふっとそう思ったんだけど……」

寅次郎「じよ、冗談じゃないよ。そんなこと言われたら誰だってびっくりしちゃうよ。ハハハ……」

千代「冗談じゃないわ……」

お千代の真剣な愛の告白を「冗談でしょ?」と茶化してしまうダメな寅さん。そんな寅さんをまっすぐに、切実な眼差しで見つめかえすお千代。この一瞬の表情に、大人の女の情念が見て取れる。

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「冗談じゃないわ…」 真剣な眼差しのお千代さん。寅さんは、そんなお千代さんの真剣さな眼差しに腰から砕け落ちて尻もちをついてしまう。目はうつろ口はカラカラ、言葉がでてこない。寅さんのそんな姿に、お千代は哀しみを心に秘めながらすぐに優しい微笑みを見せて、寅さんを安心させてあげるのだ。

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「…嘘よ。やっぱり冗談よ」
お千代の心の中には、女として寅さんを必要としている気持ちと、幼なじみとしての寅さんへの親しみの気持ちが同居している。少女の気持ちと、大人の女性の気持ち。この相反する二つの心がお千代の中で複雑に揺れている。「やっぱり冗談よ」というお千代の優しい微笑みの中には、そんな女性心理が見事に表現されているように思う。

このシーンのさわやかな切なさ哀しみは、八千草薫でなければ成立しなかっただろう。八千草薫の美しさが光るワンシーンである。

ヒドいよ寅さん!フラれたマドンナが可哀想すぎる…『男はつらいよ』この3本 その2

第29作 『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』(1982年)

いしだあゆみがマドンナを演じる、シリーズ中もっとも湿度の高い作品。寅さんとマドンナがいよいよ男女の一線を超えるか!?というかなりスリリングなシーンもあり、しっぽりとした雰囲気の作品に仕上がっている。

男にフラれたマドンナかがりを、わざわざ山を越えて励ましにやってきた今回の寅さん。その優しさにほだされて、傷心のかがりは本当に嬉しそう。

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寅さんの優しさに触れて、とても嬉しいかがりさん。

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このシーンは本当に絵になる。そして、男女の一線を越えるか?というシリーズ中もっともスリリングかつセクシャルな、でも結局なんにもなかった一夜が明けて、船着場での別れが訪れる。

かがりはもう二度と寅さんに会えない予感を感じている。寅さんはいつもの通り「きっと会えるさ」と慰めるが、その言葉はかがりの切実な想いの前に軽すぎた。私の元から男はみんな去って行く……船着場から遠く離れていく船を、じっと見つめるかがりの強い眼差しが印象的である。

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かがり「もう会えないのね…」

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寅「風がな…、風がまた丹後の方に吹いてくることもあらあな…」。かがりさんの切実な想いの前に、寅の言葉は軽い。

そして、この別れから何日か後、かがりは寅さんを追いかけて東京にやってくる。好きなのに何もしないまま男を失ってしまった過去の失恋の苦い思いが、かがりを駆り立てたのだろう。

やがて、待ち合わせ場所に寅さんがやってくる。人生はじめての思い切った行動が実を結び、かがりは本当に嬉しそうだ。

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「よかった…寅さん怒って来てくれないんじゃないかと思ってた」。
でも、寅次郎のうしろにふと目をやると、なにか様子がヘン。あれ?

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寅次郎のうしろにいる小さな男の子は一体?
ここでかがりの喜びを打ち砕くのが、寅さんのヒドすぎるこのセリフである。

ああこれ、俺の妹のせがれだよ。満男って言ってね。今日俺が鎌倉行くって言ったらどうしてもついて行くって、しょうがねえガキだな。なんでついて来たんだ?こんなとこへ」

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デートに甥っ子を連れてくるこの無神経さ!そして、二人きりではないとわかった瞬間のかがり落胆の表情。可哀想すぎて正視ができない。

そのあとの二人はあまり会話も弾まず、チグハグな様子が続く。ここでかがりははっきりと認識するのである。

以前の寅さんは、フラれた私をなぐさめる、いわば人助けをしてくれていた。でもいま目の前にいるのは男としての寅さん。人助けモードの寅さんと男としての寅さんは全くの別人。私は、親切心から優しくしてくれた寅さんに、多くを求めすぎていたのだと。

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このことに気がついた瞬間のかがりの表情が絶妙。まるで夢から目が醒めたような、哀しさと寂しさとが入り交じるとても美しい表情である。いしだあゆみはこういう幸薄い役が実に似合う。

ヒドいよ寅さん!フラれたマドンナが可哀想すぎる…『男はつらいよ』この3本 その3

第32作 『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』(1983年)

個人的にシリーズ屈指の美しさであるマドンナ朋子(竹下景子)。この人が、哀れ次なる寅次郎の犠牲者なのであった。

本作での寅さんは、ひょんなことから坊主となって法事を取り仕切るなど、明るく頼りになる男として家庭の問題に揺れる朋子を支える。

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おなじみ、寅さんの坊主コスプレ。

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寅次郎は確実に、朋子さんの心の支えになっていた。

しかし、今回の寅さんも、朋子の好意に気がついた瞬間に、別の人格に豹変をしてしまう。お互いを「男と女」として意識をしたその瞬間から、寅次郎は恐怖にさいなまれ、マドンナの求愛から逃げ腰になってしまうのだ。

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ぱちっと目が合うその日から……

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恋の花咲くこともある……

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そして翌朝、お得意の置手紙を残して寅さん逃亡!

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謎と後悔ばかりが残される、哀れ朋子さん……。寅さんはこうやって手紙一つ残してどこかへ突然姿を消してしまうことがよくある。寅さん突然の失踪の理由を確かめるために、朋子もいざ東京へ、寅さんに会いにやってくる。

そしてクライマックスの柴又駅。朋子は、寅さんの気持ちを確かめたいという切羽詰まった思いでいっぱい。そんな朋子の異変を察知した寅さんはいたたまれず、早くも逃亡モードへ。もう、その場の空気に耐えることができないんだろうな。

そして、ひかえめな朋子が胸の奥から精一杯しぼりだした愛の言葉を、茶化して無にしてしまう、寅さんの本当にヒドすぎる一連のセリフは以下のとおり。

朋子「あの三日ほど前の晩に父がね、今度結婚するんやったらどげな人がええかって聞いたの。それでね……それで……私……」

「寅ちゃんみたいな人がいいって言っちゃったんでしょ?和尚さん笑ってたろう、俺だって笑っちゃうよハハハ。なあ?

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朋子さんは、胸の奥から搾り出すように気持ちを伝えるのに……

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茶化して笑う寅次郎!そして朋子さんの落胆の表情……

朋子「ねえ、寅さん……あの晩、父さんの言うたことが、寅さんの負担になって、それでいなくなってしもうたんじゃないか思うて、そのことをお詫びしに来たの」

寅「俺がそんなこと本気にするわけねえじゃねえか、フフ

朋子「そう……じゃあ私の錯覚……」

寅「安心したか?ん?

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朋子さんのこの表情に、感情の全てが詰まっている。朋子の胸の内では、寅さんへの怒りと疑念と悲しみ、そして自分自身に対する情けなさが、ぐるぐると大きな渦になって、きっとわあっと声を出して泣きたい気持ちだったはず。でも、さくらも見ている柴又駅のホームで、この感情を外に出すことはできない。

泣きたい感情をぐっとこらえながら、それでもやっぱりこらえきれずに、目にはうっすらと涙が光る。こんなに複雑な揺れる思いを、言葉ではなく表情だけで伝えられるのはさすが女優。竹下景子の表現力が光る。

寅さんは、マドンナとの関係がライトなうちは、面白くて優しくて一緒にいるとほっとするような寅次郎でいることができる。しかし、その優しさにほだされたマドンナが寅さんに好意を持ち出すと、とたんに全然違う人格へと豹変してしまう。

それはもう、自分に向けられる好意への恐怖、性への恐怖とでも言えるくらいの怯えぶり。その根本には「自分への自信の無さ」があると思われるのだが、弱い自分に向き合うことなく、いつも「粋」だとか「いなせ」だとかで自分をごまかして逃亡。たくさんのマドンナに不可解な思いと哀しみをもたらしてきたのである。

結論として、寅さんヒドすぎるよ!と声を大にして言いたいのであるが、寅さんはこの長い長い紆余曲折と奮闘努力の末に、いよいよリリーという最愛の人とともに、自分の弱さを克服するのであるが、それはまた別の機会に語りたい。

今回取り上げたどのシーンも、マドンナの一瞬の表情に胸をつかまれる。まさに山田洋次監督の演出力と、女優さん達の演技力の結晶。ぜひ、マドンナたちの心の動きに注目しながら、本作品を楽しんでいただきたいと思う。

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      2016/06/01

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