寅さんの「遺言」? 山田洋次監督が雑誌対談で未完の男はつらいよエピソードを語る

『週間朝日』2013年3月29日号には、山田洋次監督と医師・帯津良一の対談が掲載されている。

対談では、一般にはほとんど知られていない『男はつらいよ』裏話や、渥美清に関するエピソードが山田監督自身の口から語られており、ファンにとって貴重な話が満載であった。

本対談は「がん」がテーマであるため、渥美清のがん闘病、そして遺言について、山田洋次監督が語っている。渥美清の腹の座り方、覚悟。これは本当に凄まじい。

渥美清さん主演の「寅さんシリーズ」で監督を務めた山田洋次さん(81)は、渥美さんの死に方に感動を覚えたという。がん診療とともに、養生にも造詣が深い帯津良一医師(77)との対談で次のように話した。

帯津医師(以下帯):渥美さんご自身はC型肝炎があって最後は肝臓がんが肺に転移して亡くなったんですよね。

山田さん(以下山):ええ。あの人は腹がすわっていましたね。亡くなった後で聞いたんですが、奥さんと子どもさん2人に夜、「お父さんの人生は寅さんの仕事をあと2、3回やっておしまいだよ」と、ちゃんと話していたそうです。「でもこれは誰にも言っちゃいけない。親戚にも。俺が息を引き取るまで、一切言うな」と。実際にご家族もそれを守られた。

帯:覚悟ができていたんですね。「死ぬときは野垂れ死にがいい」とも言っておられましたね。役者として、人知れず死ぬんだと。で、倒れているところを見つけた人が、「あれ、この人役者じゃないか」。

山:そうそう。「近頃、渥美はどうしたんだい、顔見ないね」「あれは死んだよ」っていうのが理想だった。死んだ後に人に負担をかけたり、大騒ぎされたりするのはイヤ。現役で仕事をしているんだからマスコミが騒ぎ立てるだろうけど、「ともかく、骨になって家に帰ってくるまで一切、誰にも言うな。あとは山田監督に連絡して任せなさい」、そう家族3人に言ったそうです。

帯:奥さん、そのとおりになすったんですね。

山:そうです。奥さんから電話がかかってきて、「昨日、主人が亡くなりました」。びっくりして腰が抜けそうでした。病気のことは知ってはいましたけど……。見事な死に方ですね。

対談は、全体の8割ほどが男はつらいよにまつわるお話。なかでも寅さんファンにとって目を引くのが「寅さんの遺言」に関して、山田洋次が腹案を練っていたというエピソードである。以下引用。

実は作りかけた寅さんの”遺言”

山:寅さんシリーズでは、「俺が死んだら」という芝居を作りかけてやめたことがあります。

ダンゴ屋の茶の間でそういう話になって、寅さんが「俺はみんなに迷惑ばかりかけている男だから、お墓なんか建ててもらわなくていいんだよ」と言い出すんです。

「そんなこと言わないで。ちゃんと建ててあげるわよ」「いいよ。本当にいらない。たくあん石でいいから、石コロをぽんと置いておくれ。ただし一つだけお願いがある。その石に彫ってほしい字がある。『無』って書くんだ。どうだ、ちょっといいだろう」。

あきれたおいちゃんが「お前それはな、たくさんの仕事をした偉い人が言うからいいんで、お前みたいに迷惑ばかりかけた男が『無』って書いてもなんにもなりゃしない。

だいたいお前は生まれてから今日まで、ずっと無じゃねえか。そういうのは『無(む)』じゃなくて『無(なし)』って読むんだよ」と言って、大喧嘩になるという…。そういう芝居です。

実現しなかった男はつらいよのエピソードは、山田洋次監督の中にまだまだ山のようにあるのだろう。映像での再現は不可能であるが、このような形で、もっともっとたくさん寅さんエピソードを聞いてみたいものである。

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      2016/06/01

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